止める声には、価値がある。【前編】|損を防ぐことが会社を守る

こんにちは。福島県郡山市の税理士、遠藤光寛です。
今回は、私が顧問先支援で大切にしている判断の軸について書きます。
税理士なのだから、儲かる話を持ってきてほしい。
そう言われることがあります。
ですが、私はそうは考えていません。
むしろ、止めることこそが、税理士の大切な仕事のひとつだと思っています。
なぜなら、成功には再現性が乏しい一方で、失敗には再現性があるからです。
うまくいくかどうかは、最後まで分からないことが多い。
しかし、崩れる会社には、かなり共通したパターンがあります。
だから私は、夢を語る前に、まず損失を止めることを重視します。
派手ではありません。
むしろ地味です。
ですが、会社と家族を守るという意味では、これ以上なく重要な仕事だと考えています。
税理士の仕事は、儲かる話を勧めることだけではありません
経営者は、前に進む人です。
だからこそ、新しい話、伸びそうな話、これから当たりそうな話に心が動くのは自然です。
新規事業
新店舗
新サービス
新しい投資先
業界の隙間を狙った企画
こうした話には、夢があります。
希望があります。
やれば変わるかもしれないという期待があります。
ですが、経営は期待だけでは成り立ちません。
特に中小企業では、一度の判断ミスがそのまま資金繰りの悪化につながることがあります。
だから税理士は、話を盛り上げる人である前に、崩れないかを確認する人であるべきです。
止めるべきときに止める。
それが、経営の損失を止めるということです。
やる気があることと、勝てることは別です
企業支援をしていると、社長がやる気満々の案件に出会うことがあります。
収支予測も作ってある。
加盟料も用意できる。
周囲も乗り気に見える。
社長本人も、これはいけると思っている。
こうしたとき、周りは空気を読んで賛成しがちです。
せっかく盛り上がっているのだから、水を差したくない。
社長のやる気を削ぎたくない。
そう考えるからです。
ですが、私はそこを切り分けます。
やる気があることと、勝てることは別です。
準備していることと、採算が合うことも別です。
お金が出せることと、出してよいことも別です。
経営では、この別を見分ける力が必要です。
そして多くの場合、そこを冷静に見られる人が社内にいないからこそ、外部の専門家が必要になります。
希望は確率ですが、支出は確定です
新規事業や投資の話で見落とされがちなのは、この感覚です。
うまくいけば伸びる。
当たれば大きい。
軌道に乗れば回収できる。
これはすべて希望です。
可能性の話です。
言い換えれば、確率です。
一方で、支出は違います。
加盟料
初期投資
採用費
教育費
設備費
広告費
人件費
固定費
これらは、やると決めた瞬間から現実になります。
お金は確実に出ていきます。
つまり、希望は曖昧でも、支出は確定です。
この非対称性を理解しないまま進むと、会社は簡単に傷みます。
経営で怖いのは、夢を見たことではありません。
夢を見たまま、確定支出を積み上げてしまうことです。
他がやらないことには、理由があるかもしれません
よくあるのが、他がやらない今こそチャンスだという発想です。
確かに、その視点自体は間違いではありません。
競争が少ないところに機会があるのも事実です。
ただ、ここで止まって考えなければなりません。
なぜ他がやらないのか。
なぜ他が撤退したのか。
なぜ続かなかったのか。
この分析なしに入るのは危険です。
市場が小さいのかもしれない。
採算が合わないのかもしれない。
認知に時間がかかりすぎるのかもしれない。
人材配置が難しいのかもしれない。
結局、現場が疲弊する構造なのかもしれない。
つまり、空白には理由があることが多いのです。
ここを見ずに、誰もやっていないからいけると考えるのは、かなり危うい判断です。
新規事業は、思っている以上に精度が必要です
新規事業は、思いつきと勢いで形にできるほど甘くありません。
私はよく、針の穴に糸を通すような精度が必要だと感じます。
市場規模はあるか。
地域で認知を取れるか。
既存事業に悪影響は出ないか。
現場の人員配置は組めるか。
採算ラインは現実的か。
最悪のときに撤退できるか。
こうした論点をひとつずつ詰めなければなりません。
しかも、ひとつでも甘いと全体が崩れます。
収益性が甘い。
人員計画が甘い。
認知戦略が甘い。
資金繰りが甘い。
この甘さが積み重なると、最終的には誰も幸せにならない事業になります。
社長だけでなく、スタッフも疲れる。
既存事業も傷む。
お金も残らない。
それなら、やらない方がましです。
止めることには、責任と勇気がいります
止めるのは簡単ではありません。
むしろ、勧める方が楽です。
面白そうですね。
可能性がありますね。
やってみましょう。
この方が場は盛り上がります。
ですが、本当に責任を持って関わるなら、危ない話を危ないと言わなければなりません。
ここはやめた方がいい。
今は動かない方がいい。
まだ精度が足りない。
資金繰りが持たない。
その一言を言うには、責任と勇気が必要です。
なぜなら、相手の期待を裏切るからです。
場の空気も重くなります。
嫌われるかもしれません。
それでも止めるべき理由があるなら、私は言うべきだと思っています。
耳障りのよい言葉より、損を防ぐ言葉の方が、会社を守るからです。
成功を追う前に、崩れない設計を確認するべきです
私は、どんな挑戦にも反対したいわけではありません。
新しいことをやるなと言いたいわけでもありません。
ただ、やる前に確認すべき順番があります。
当たるかどうかより、崩れないか。
伸びるかどうかより、持つかどうか。
夢があるかどうかより、損失に耐えられるか。
この設計がないまま進むと、会社は希望に賭ける経営になります。
それは経営ではなく、祈りに近いものです。
経営で大切なのは、やれば当たるではありません。
やっても崩れない設計があるかです。
ここが整って初めて、挑戦が意味を持ちます。
地味な道こそ、会社を残します
企業経営は、派手な勝負の連続ではありません。
むしろ、地味な積み重ねです。
数字を整える。
固定費を見直す。
資金繰りを守る。
人を育てる。
小さな改善を重ねる。
利益が出る構造をつくる。
こうした地味なことの上にしか、強い会社は立ちません。
苦しいときほど、華やかな話に手を伸ばしたくなります。
大きく変わりたい。
一発で逆転したい。
その気持ちは分かります。
ですが、そういうときほど、足元を見るべきです。
派手に見える成功にも、その裏には地味な積み重ねがあったのかもしれません。
あるいは、ただの虚像かもしれません。
私は、不確かな夢に会社を賭けるより、地味でも確実に成果につながる道を支えたいと思っています。
まとめ
税理士の仕事は、儲かる話を持ってくることだけではありません。
むしろ大切なのは、損失を防ぐことです。
成功には再現性が乏しい。
ですが、失敗にはかなりの再現性があります。
・資金繰りが甘い
・市場分析がない
・採算が甘い
・現場の負荷を見ていない
・支出だけが先に確定している
こうした条件がそろえば、かなりの確率で崩れます。
だからこそ、止める声には価値があります。
止めるのは、夢を壊すためではありません。
会社と家族と現場を守るためです。
派手ではなくてもいい。
遠回りに見えてもいい。
地味で、確実で、成果に結びつく道を歩むこと。
それが、会社を長く残す一番強い戦い方だと私は思います。
経営判断の損失を止めたい方へ
新規事業、出店、投資、採用、設備導入。
前に進みたい気持ちはあるが、この判断で本当に大丈夫なのか不安がある。
そういうときこそ、一度立ち止まって、希望ではなく設計を確認することが大切です。
やれば当たるかではなく、やっても崩れないか。
その視点で判断を整理するだけでも、損失を防げることがあります。
まずは、自社の経営判断が 期待 で動いているのか、それとも 根拠 で動いているのかを見直してみてください。





