医療法人の理事長に決算書のみかたをレクチャー #2 |会計を中途半端に混ぜると、経営判断はぶれます

1 会計を混ぜると、経営判断は簡単にぶれます
先日、医療法人の理事長に対して、決算書のみかたのレクチャー第2回を行いました。
理事長は、ドクターとして非常に優秀な方です。
患者さんに向き合い、現場を理解し、医療の判断を日々積み重ねておられる。
ただ、医療法人の経営となると、そこには別の力が必要になります。
それが、数字を分けて見る力です。
今回のテーマは、3つの会計です。
管理会計、財務会計、税務会計。
それぞれ、誰に向けた数字で、何を重視する会計なのか。
その定義から整理しました。
世の中では、この3つが中途半端に混ざったまま語られることが少なくありません。
そのため、理事長や社長が数字の話を聞くたびに、頭の中が散らかっていきます。
節税の話を聞けば、利益を減らした方がよいように見える。
財務の話を聞けば、利益を増やした方がよいように見える。
現場の話を聞けば、患者さんやスタッフにもっと投資すべきだという話になる。
それぞれ単体では間違っていなくても、混ぜ方を誤ると、経営判断は簡単にぶれます。
① 同じ数字に見えても、会計ごとに目的が違います
数字は一つに見えても、その数字を何のために使うのかで意味は変わります。
目的が違うものを同じ土俵で扱えば、判断がぶれるのは当然です。
今回はまず、会計を一つの塊として見るのではなく、目的ごとに分けて理解することの必要性をお伝えしました。
この整理ができるだけで、経営者の頭の中はかなり静かになります。
② 情報が多いほど、経営者の頭は散らかりやすくなります
経営者は、税理士、金融機関、コンサルタント、現場スタッフなど、さまざまな立場の人から数字の話を聞きます。
問題は、それぞれが別の目的で話していることです。
節税の文脈で話しているのか。
金融機関対応の文脈で話しているのか。
院内改善の文脈で話しているのか。
ここが分からないまま聞くと、全部が正しく見えてしまい、全部を一気にやろうとしてしまいます。
そこから、ぶれた経営判断が始まります。
③ ぶれた判断は、現場を疲弊させます
経営判断のぶれは、数字の問題だけでは終わりません。
方針が揺れると、現場が疲れます。
スタッフは何を信じて動けばよいのか分からなくなる。
患者さんへの向き合い方もぶれる。
結果として、本来いちばん大切にすべき仕事がおろそかになります。
だからこそ、会計を分けて理解することは、単なる知識の整理ではありません。
現場を守るための整理でもあります。
2 管理会計・財務会計・税務会計は、同じ土俵で扱ってはいけません
今回お伝えした整理は、まずここです。
管理会計は、院内のための会計です。
未来のための会計であり、院内で何を重視し、スタッフに何を伝え、どのKPIを追うかを決めるための数字です。
財務会計は、金融機関など外部に見せる会計です。
基本的には過去の結果を表し、外部からどう見られるかに関わる数字です。
税務会計は、納税のための会計です。
これも過去の結果をベースに組み立てるもので、何をいくら納めるかという世界の数字です。
この3つは、同じ数字の話に見えて、目的が違います。
だから、同じ土俵で扱ってはいけません。
① 管理会計は、院内の未来をつくるための会計です
管理会計は、院内でどう動くかを決めるための会計です。
患者さんにどう向き合うのか。
スタッフに何を伝えるのか。
どのKPIを追うのか。
何に力を入れ、何を見直すのか。
そうした未来の打ち手を考えるための数字です。
私は、管理会計とは本来、院内の行動を整えるために使うものだと考えています。
単に数字を並べるためのものではありません。
② 財務会計は、外部からの信用に関わる会計です
財務会計は、金融機関など外部に見せる会計です。
どれだけ利益を残しているか。
どれだけ安定しているか。
外部からどう見られるかに直結します。
ここでは、利益を増やし、信用を積み上げていく視点が重要になります。
つまり、財務会計は、外部との関係を整えるための数字です。
③ 税務会計は、納税のための会計です
税務会計は、納税のための会計です。
何をいくら納めるか。
どこまで費用にできるか。
どのように処理するか。
そうした、納税を前提にした数字の世界です。
ここでは当然、節税という意識が強くなります。
つまり、利益を減らす方向に意識が向きやすい。
ここが、財務会計や管理会計との大きな違いです。
3 税務会計と財務会計は、目指す方向が違います
とくに重要なのは、税務会計と財務会計は、目指す方向が違うということです。
税務会計は、節税、つまり利益を減らす方向に意識が向きやすい。
一方で、財務会計は、利益を増やし、外部からの信用を積み上げる方向に向かいます。
そして管理会計もまた、利益を増やすことを前提に、未来の打ち手を考える会計です。
つまり、ここにはブレーキとアクセルが同時に存在しています。
この使い分けを間違えると、経営はおかしくなります。
① 節税も、自己資本比率も、業績向上も、一気に全部は難しい話です
節税をしたい。
自己資本比率も上げたい。
業績も上げたい。
経営者として、どれも気になるのは当然です。
ただ、これらを一気に全部きれいにやろうとするのは、高度な話です。
しかも、場面によっては矛盾します。
だからこそ、優先順位が必要です。
② 経営の至上命題は、まず業績を上げることです
今回お伝えしたかったのは、業績を上げることが至上命題だということです。
自己資本比率も大事です。
節税も無視はできません。
ですが、それらに踊らされて、目の前のスタッフの信頼を失うような真似をしてはいけません。
経営者が最優先で向き合うべきなのは、患者さんとスタッフです。
ここを外して外部対応ばかり気にしていると、院内の軸が崩れます。
③ 優先順位がない経営は、ノイズに振り回されます
外から聞こえてくる話には、それぞれ正しさがあります。
ですが、正しい話が多いほど、経営はぶれやすくなります。
大事なのは、何が正しいかではなく、いま何を優先するかです。
この優先順位がないまま全部を追うと、現場は混乱し、経営者自身も疲弊します。
だから、数字の整理とは、優先順位を決めるための整理でもあります。
4 手と目の届くことから始めるしかありません
経営者が本当に向くべき相手は、外部の人間より、まずスタッフと患者さんです。
外から聞こえてくるノイズに反応して、方針を変えてばかりいると、現場は疲弊します。
スタッフは、何を信じて動けばいいのか分からなくなる。
患者さんへの向き合い方もぶれる。
その結果、いま本当にやるべき仕事がおろそかになります。
だから、手と目の届くことから始めるしかありません。
ウルトラCはありません。
① 患者さんにどう向き合うかを決めることです
まず必要なのは、患者さんにどう向き合うかを明確にすることです。
医療の現場で最優先すべきことは何か。
何を大切にし、何を守るのか。
ここがぶれてはいけません。
② スタッフに何を伝えるかを決めることです
次に必要なのは、スタッフに何を伝えるかを決めることです。
院内で何を重視するのか。
どこへ向かうのか。
何を期待し、何を求めるのか。
これが言語化されていないと、現場は迷います。
③ 院内でどのKPIを追うかを決めることです
そして最後に、院内でどのKPIを追うかを決めることです。
何を見て、何を改善し、どの数字を動かすのか。
そこが整理されると、現場の行動がそろい始めます。
管理会計とは、本来そのためにあります。
5 会計を分けて理解すると、経営者の頭は静かになります
会計をきちんと分けて理解すると、経営者の頭は整理されます。
これは節税の話なのか。
これは金融機関に見せる話なのか。
これは院内で未来をつくる話なのか。
それが分かるだけで、余計なノイズに振り回されにくくなります。
① 数字に振り回されるのではなく、数字を使う側に回れます
理事長に必要なのは、数字に振り回されることではありません。
数字を使って、患者さんとスタッフに集中できる状態をつくることです。
会計を分けて理解すると、そのための道筋が見えてきます。
② 会計を分けることは、判断の軸を整えることです
数字の整理とは、単に知識を増やすことではありません。
これは何のための数字か。
いま自分はどの会計の話をしているのか。
ここが整理されると、判断の軸が整います。
③ 今回のレクチャーが、その一歩になればと思っています
会計を中途半端に混ぜると、経営判断はぶれます。
逆に、会計を分けて理解すると、やるべきことが見えてきます。
今回のレクチャーが、その整理の一歩になればと思っています。





