医療法人化したクリニックは、出口戦略を決めるべき理由

医療法人化は、節税、社会的信用、採用面などの理由から検討されることが多いものです。
ですが、私は医療法人化を考えるなら、その時点で出口戦略まで決めるべきだと思っています。
なぜか。
医療法人の理事長は、原則として医師または歯科医師である理事のうちから選ぶ仕組みだからです。例外的に、都道府県知事の認可を受ければ医師・歯科医師以外の理事が理事長になることもできますが、あくまで例外です。つまり、一般の会社以上に、誰が引き継ぐのか、どうつなぐのかが重要になります。
にもかかわらず、多くの院長は法人化の入口には熱心でも、出口は後回しにしがちです。
この後回しが、未来の損失を生みます。
1. 出口戦略を決めていないと、戦略がぶれます
医療法人で出口戦略を決めていないと、まず起きるのは戦略のぶれです。
何となく続ける。
何となく目の前を回す。
でも、どこに向かうのかが決まっていない。
すると、一番先に何が起きるか。
私は、スタッフの慢性的な不安だと思っています。
院長自身は、まだ先の話だと思っているかもしれません。
あるいは、大事だと思っていないかもしれません。
それより日々の臨床が大事だ、目の前の患者さんが大事だ、と考えていることも多いでしょう。
もちろん臨床は大事です。
ですが、臨床だけを見て、医院の将来を曖昧にしたままにすると、現場には別の空気が流れ始めます。
2. スタッフは、将来が見えないことに不安を感じます
スタッフが不安に思うのは、難しい経営論ではありません。
もっと単純です。
このまま自分は、ここで勤務していていいのか。
この不安です。
院長がいつまで前線に立つのか分からない。
この法人を続けるつもりなのかも分からない。
誰が次を担うのかも見えない。
何を目指している組織なのかも曖昧。
こういう状態では、日常的な不満が増えます。
そして、いざキーマンが一人辞めると、連鎖的に離職が起きやすくなります。
なぜなら、みんながもともと不安を抱えているからです。
その不安を表に出すきっかけが、誰かの退職になる。
これが未来の損失です。
3. 出口戦略とは、誰に継がせるかだけの話ではありません
出口戦略というと、後継者を誰にするかという話だけに聞こえるかもしれません。
ですが、私はもっと手前の話だと思っています。
まず決めるべきは、
この医療法人を存続させるのか否か
です。
存続させないなら、出口はどうするのか。
いつ、どう閉じるのか。
患者さん、スタッフ、取引先にどう影響を出さないようにするのか。
一方、存続させるなら、どうつなげるのか。
誰が中核になるのか。
何年かけて移していくのか。
そこまで考えて初めて、出口戦略です。
つまり、出口戦略とは終わり方の話であると同時に、続け方の話でもあります。
ここを決めないままでは、医院の未来はずっと宙ぶらりんです。
4. 存続させるなら、まず幹部から整えるべきです
では、存続させると決めた場合、何から着手すべきか。
私は、まず幹部だと思っています。
しかも、自分に近い立場の人からです。
院長が一人で将来を考えていても、組織は動きません。
近くにいる幹部が理解していなければ、現場には何も伝わらないからです。
幹部が方針を分かっていない組織は、スタッフに安心を与えられません。
むしろ、幹部が迷っている空気はすぐ伝わります。
だから、存続させると決めたなら、幹部に最初に共有すべきです。
しかも、ふわっとした話では足りません。
将来の方針を、年齢と年数つきで共有することです。
たとえば、
私は何歳までは前線に立つ。
その後の何年間で権限を移していく。
何年後にはこういう体制にする。
というように、時間軸を入れて話す。
ここまで言わないと、方針とは言えません。
曖昧な希望ではなく、見通しとして伝えることが必要です。
5. 院長が大事に思っていないことは、現場にも伝わります
多くの院長が出口戦略を後回しにするのは、単に忙しいからだけではありません。
優先順位が低い。
本気で大事だと思っていない。
それより臨床が大事だと思っている。
この傾向があります。
しかし、院長が大事に思っていないことは、現場にも伝わります。
院長が将来を語らない。
幹部にも共有しない。
誰も説明できない。
そうすると、スタッフは、この医院は先のことを考えていないのではないかと思い始めます。
そしてその不安が、離職や不満という形で表面化していきます。
未来の損失は、急に起きるものではありません。
院長が考えない。
決めない。
伝えない。
この小さな積み重ねで、静かに進んでいきます。
6. 出口戦略は、スタッフへの安心材料でもあります
院長の中には、将来の話をするとスタッフが不安になるのではないかと思う方もいます。
ですが実際は逆です。
何も分からないことの方が、よほど不安です。
この法人を続けるつもりなのか。
続けるなら、どうつなぐのか。
院長はいつまで現場に立つのか。
幹部はどう関わるのか。
こうしたことが、年齢と年数つきで共有されていれば、スタッフは自分の将来を考えやすくなります。
このまま勤めていていいのかという不安は、小さくなります。
不満も減ります。
キーマンが辞めたときの連鎖離職も起きにくくなります。
出口戦略は、院長だけのためのものではありません。
スタッフの安心を守るためのものでもあります。
そしてその安心が、医院の未来を守ります。
7. 未来の損失を止めるなら、今決めるべきです
医療法人化したクリニックは、入口だけ整えても足りません。
出口まで考えて初めて、法人化の意味が出ます。
存続させるのか否か。
存続させないなら、どう終えるのか。
存続させるなら、どうつなげるのか。
そのために、まず幹部から整える。
そして、将来の方針を年齢と年数つきで共有する。
これをやらないと、未来の損失は必ず出ます。
離職、不満、不信感、連鎖退職。
それらはすべて、将来が見えないことから起きます。
だから私は、院長にこう伝えたいのです。
出口戦略を決めて、院内スタッフに共有する。
これが、未来の損失を止める第一歩です。








