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【センゴクに学ぶ事業承継 #2】上杉謙信と御館の乱に学ぶ 後継者を決めない会社の末路

こんにちは。福島県郡山市の税理士、遠藤光寛です。

今回は、戦国時代の上杉家を題材に、事業承継で何が失敗を招くのかを整理してみたいと思います。

事業承継というと、株式移転や相続税対策に目が向きがちです。
しかし、現場で見ていると、本当に危ないのはその前段階です。

誰に継がせるのかが曖昧。
社長がいつまでも現役。
後継者候補はいるのに、社内外に明示していない。
財務や権限を渡していない。
この状態では、どれだけ強い会社でも承継は不安定になります。

今回は、軍神と呼ばれた上杉謙信の死後に起きた御館の乱を、現代の企業承継になぞらえて見ていきます。
後継者候補が複数いる会社が、どう崩れるのか。
その怖さが非常によく分かる事例です。

目次

1. 日本の経営者は高齢化しているのに、社長交代は進んでいません

中小企業の現場では、社長の高齢化が年々進んでいます。
年齢的には、すでに承継を考え始めてもおかしくない。
それでも、実際には社長交代が進んでいない会社は少なくありません。

理由はいくつもあります。

・まだ自分がやれると思っている
・後継者が頼りない
・誰に継がせるか決めきれない
・会社の数字や実態を見せていない
・周囲にも正式に伝えていない

こうした状態が続くと、表面上は何とか回っていても、承継準備は進みません。
そして、いざというときに一気に混乱します。

2. 事業承継がうまくいかない会社には、共通する2つの特徴があります

私が見てきた中で、事業承継がうまくいかない会社には大きく2つの共通点があります。

① 社長が生涯現役でいようとすること

特に、裸一貫から会社を大きくした初代経営者に多い印象です。
会長になっても、相談役になっても、結局は現場に強く口を出す。
社長を飛び越えて強権を発動する。
部下も取引先も、後継者ではなく大殿の顔色を見る。
そして本人は、俺がいないとやっぱりダメだと言って現場に降臨し続ける。

後継者側も守られていては育ちません。
権限も責任も中途半端なまま、いつまでも本当の意味で組織を掌握できなくなります。

② 後継者を決めていない、あるいは示していないこと

これには、社内外に公言していないことも含みます。
会社を子どもに継がせるつもりではいても、社員や幹部、取引先、金融機関に伝えていない。
社長仕事を任せていない。
財務内容を見せていない。
この状態では、承継は準備されているとは言えません。

後継者候補が複数いる場合は、なおさら危険です。
組織の中に期待と思惑が広がり、いざというときに一気に分裂します。

3. 上杉家を現代の会社に置き換えるとどう見えるか

ここで、上杉家を現代の会社になぞらえて見てみます。

上杉家は、新潟県上越市に本社を置く名門企業のような存在です。
もともとは長尾家でしたが、ハイブランド企業である山内上杉家と合流し、その家名とブランドを継承したと考えると分かりやすいでしょう。

現社長にあたる上杉謙信は、19歳でトップに就任。
神がかり的な営業力で越後を統一し、その後、群馬、埼玉、東京、神奈川、長野、富山、石川へとシェアを広げていきます。
さらに、関東管領職という、当時ほぼ唯一無二のブランドまで手に入れました。

営業力だけでなく、物流や流通の整備、情報網の構築、教養、統率力まで備えた、超高スペック経営者です。
しかも、困っている部下を見捨てない義の人でもありました。

つまり、会社として見れば、

・ブランドがある
・資金力がある
・人材が厚い
・社長がカリスマである
・全国区の知名度がある

という、非常に強い会社です。

4. 後継者候補が優秀でも、決めていなければ争いになります

上杉家では、後継者候補がいなかったわけではありません。
むしろ、どちらも優秀でした。

ひとりは、甥の上杉景勝。
寡黙で筋を通すタイプです。
もうひとりは、養子の上杉景虎。
名門北条家の出身で、人脈もあり、見栄えもよく、社長に気に入られた存在でした。

どちらも後継者候補として不自然ではありません。
しかも、最初から極端に仲が悪かったわけでもないようです。

ですが、トップは一人です。
そして、そこを謙信ははっきり決めないまま亡くなります。

後継者候補が複数いて、しかも両方優秀。
これは一見、会社に厚みがあるように見えます。
しかし、誰が継ぐかが決まっていなければ、それは強みではなく火種になります。

5. 社長の急逝は、準備不足の会社を一気に壊します

1578年3月、上杉謙信は突然倒れ、そのまま帰らぬ人となります。
半年前には全国シェア1位クラスの織田勢に大勝し、上杉グループ全体として攻勢に出ようとしていた矢先でした。

会社に置き換えれば、業績もブランドも絶頂期にある中で、カリスマ社長が急逝したようなものです。

ここで何が問題になるか。
当然、後継者です。

しかし上杉家では、その最重要事項が整理されていませんでした。
結果として、景勝と景虎のどちらにつくかで社内が割れます。

これは現代でも同じです。

・社長が突然倒れる
・正式な後継者が決まっていない
・幹部の中で支持が割れる
・取引先も様子見になる
・社員も誰についていくべきか迷う

この状態が始まると、会社は一気に弱ります。

6. 御館(おたて)の乱とは、後継者を決めないまま始まった社内抗争です

上杉謙信の死後に起きた御館の乱は、現代風に言えば、後継者争いによる社内抗争です。

トップが不在になり、後継候補が複数いる。
しかもどちらも一定の正当性を持っている。
その状態で、会社の中が二つに割れていきます。

これは事業承継で最も避けたい状況です。
会社は外と戦う前に、中で戦い始めるからです。

どちらが正しいかより先に、組織としての一体感が崩れます。
承継時に一番守るべきものは、実は株式や税金だけでなく、組織の求心力なのだと分かります。

7. 景勝は 既成事実 を積み上げて主導権を握りました

御館の乱の序盤で主導権を握ったのは景勝でした。
理由は明確です。
優秀なブレーンがついており、承継直後に押さえるべきものを、素早く押さえたからです。

・敵対する有力幹部の排除
・本社機能の掌握
・金庫や兵器蔵の確保
・印鑑、証明、意思決定に必要な機能の掌握
・社内外への就任通知

現代の会社に置き換えれば、金、印鑑、決裁権、重要資産、情報発信を先に押さえたということです。

① 承継では きれいごと だけでは勝てない

事業承継では、理念や気持ちだけではなく、誰が実権を握るかが極めて重要です。
名分だけあっても、金庫も印鑑も決裁権も押さえられていなければ、主導権は取れません。

② 既成事実を押さえた側が強い

承継時は、形式が整う前に実務が動きます。
だからこそ、何を先に押さえるかが重要です。
これは上杉家の事例から学べる非常に現実的な教訓です。

8. 景虎は 人脈 で対抗しましたが、外部環境に左右されました

これに対して景虎は、人脈を使って巻き返しを図ります。
関東の北条グループ、甲信の武田グループ、東北の伊達や蘆名など、広いネットワークに支援を求めました。

一見すると、こちらも強そうです。
ですが、承継の成否は人脈があるかだけでは決まりません。
相手の事情、外部環境、タイミングに大きく左右されます。

北条は自社の戦いで手一杯。
武田は景勝に取り込まれる。
伊達、蘆名も有効打を出せない。
つまり、景虎は社外の支援に期待しすぎたのです。

① 外部支援は最後まで当てにできない

承継でも同じです。
金融機関、親族、取引先、顧問先、支援者。
誰かが何とかしてくれるだろうと考えるのは危険です。

② 最後にものを言うのは、自社の準備です

外部の支援は補助にはなります。
ですが、承継の土台を作るのはあくまで社内です。
ここが弱いと、外の援軍は間に合いません。

9. 20億円の結婚は、承継で財が一気に流出する怖さを示しています

景勝は武田を取り込むため、武田勝頼の妹 菊姫 と電撃結婚し、巨額の結納金を支払います。
一説には、その額は20億円規模です。

これは、事業承継で財が一気に外へ流出する象徴的な場面です。

承継そのものが争いになると、

・防衛のために金が出る
・味方を固めるために金が出る
・時間を買うために金が出る
・本来守るべき内部留保が消える

ということが起きます。

① 貯めているだけでは守れない

先代が何十年もかけて蓄えた内部資本も、承継で争えば一気に吹き飛びます。
だから大事なのは、貯めることだけではありません。
承継時にどう守るかまで設計しておくことです。

② 財務と承継は切り離せない

後継者問題を感情で処理すると、最後はお金で片をつけることになりがちです。
その意味でも、承継は財務そのものです。

10. 決着がつくまで2年かかったことが、承継の怖さです

景虎は最終的に敗れ、景勝が上杉家を掌握したのは1580年。
謙信の死から約2年後でした。

ここで重要なのは、決着がすぐにつかなかったことです。
つまり、承継の混乱は短期で終わらず、長引くということです。

この2年間に失われたものは大きい。

・幹部たち
・内部資本
・ブランド
・求心力
・周辺エリアのシェア

先代が30年かけて築いたものが、わずか2年で大きく傷みました。

11. ハイエナとハゲタカは、承継で弱った会社を必ず狙います

景勝が勝利したとはいえ、上杉家は深く傷つきました。
そこを周囲が見逃すはずがありません。

北陸では織田。
東北では蘆名、伊達。
信越では織田、北条。
四方八方からシェアを削られていきます。

これは現代の会社でも同じです。

・承継で社内が割れる
・幹部が抜ける
・内部留保が減る
・新社長が求心力を持てない

そうなると、競合は必ず動きます。

① 承継は社内だけの問題ではない

ライバル企業、金融機関、取引先、社員候補。
みな、承継の不安定さを見ています。
内部だけで何とかしようとしても、外から一気に崩されることがあります。

② 弱った会社は、驚くほど早く狙われる

承継後の不安定期は、会社にとって最も危ない時期です。
この時期をどう守るかまで考えておく必要があります。

12. どれだけ条件がそろっていても、失うときは一瞬です

上杉家には、会社として見れば恵まれた条件がそろっていました。

・先代が伝説級のカリスマ
・内部資本が潤沢
・後継候補が優秀
・ベテラン幹部が厚い
・若手ブレーンもいる
・ブランドがある
・全国区に人脈がある

それでも、承継を誤れば失います。
しかも、失うときは一瞬です。

これは現代の会社でも同じです。
後継者候補が優秀だから大丈夫。
お金があるから大丈夫。
ブランドがあるから大丈夫。
そうとは限りません。

承継設計が甘ければ、強みそのものが奪い合いの対象になります。

13. 事業承継で本当に必要なのは、社長がまさかに備えることです

上杉謙信は、事実上最強の立場にありました。
ライバル武田信玄もすでに亡くなり、大きな勝利の直後でもありました。
本人にとって、死は晴天の霹靂だったかもしれません。

ですが、経営者は まさか に備えなければなりません。

① 身体は最大の資本です

どれだけ優秀でも、身体が倒れれば終わります。
しかも経営者の身体は、自分だけのものではありません。
社員、取引先、家族、会社全体に影響します。

② 備えとは 保険 だけではありません

本当の備えとは、後継者、権限、財務、社内外への周知を整えておくことです。
突然倒れても、会社が止まらない状態を作っておくことです。

14. 後継者は早めに内外へ示す必要があります

後継者が優秀であっても、事前に周囲へ示されていなければ、いざというときに誰も動けません。
むしろ、組織は分裂します。

・誰についていくか
・誰の指示を優先するか
・誰が本当の社長なのか

これが曖昧なままでは、業務は停滞し、外部に付け込まれます。

だからこそ必要なのは、

・後継者を内外に公示すること
・財務内容を開示すること
・マイルストーンとスケジュールを決めること

です。

15. 財を失うのは、本当に一瞬です

日本海ルートを押さえ、関東、信越、北陸から集めた内部資本も、承継争いが始まれば一気に失われます。
貯えているだけでは守れません。

誰が受け取るのか。
受け取った後に周囲がどう動くのか。
承継後の環境はどう変わるのか。
そこまで含めて考えないと、財産は守れません。

16. まとめ

上杉謙信の死後に起きた御館の乱は、後継者を決めない会社がどう壊れるかを非常に分かりやすく示しています。

事業承継がうまくいかない会社には、共通点があります。

・社長が生涯現役で居座る
・後継者を明確に決めていない
・決めても内外に示していない
・財務や権限を渡していない
・承継後の環境変化を想定していない

どれだけ優秀な後継者候補がいても、どれだけお金があっても、どれだけブランドがあっても、承継を誤れば失うときは一瞬です。

だからこそ、先代社長の目の黒いうちに対策を始めること。
これが成功の確率を上げる最も重要なポイントです。

17. 事業承継の準備を整理したい方へ

後継者候補はいるが、正式にどこまで示してよいか迷っている。
承継後に社内が割れないか不安がある。
財務や権限をどの順番で渡すべきか悩んでいる。
そうした場合は、まず現状を整理することが大切です。

事業承継は、相続税や株式移転だけの問題ではありません。
誰に、いつ、何を、どう渡し、承継後の会社をどう守るかという経営そのものの問題です。
まずは、自社が 御館の乱型 にならないために、後継者、権限、財務、周知の4点が整っているかを見直してみてください。

福島県郡山市で、税理士のセカンドオピニオンを中心に活動。 国税18年、税理士8年の経験をもとに、経営の損失を防ぐため、お金、人材、時間、機会、家族、未来の6つから企業を支援。

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